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世界初、真空排気効果をもつ成形ベローズ、真空を排気するメカニズム

 真空排気効果をもつ本成形ベローズがH2とCOを排気するメカニズムを図1に示します。
 内面に無酸素Pd/Tiを成膜した成形ベローズを133~176℃で1.5~12時間加熱すると(この工程をベーキングと呼びます)、Ti膜中に吸蔵されていた水素原子(H)はPd層を通ってPd表面に拡散し、水素分子(H2)として脱離します。また、Pd表面に化学吸着していた一酸化炭素(CO)も脱離します。脱離したH2とCOはターボ分子ポンプで排気します。成形ベローズを室温に戻すと、真空中に残っていたH2はPd表面で解離吸着してHとなり、Pd表面からPd層を拡散してTi層に吸蔵されます。また、真空中に残っていたCOはPd表面に化学吸着されます。133~176℃で加熱したあとの真空中の気体の主成分はH2とCOですので、封じきりにしたとしても、無酸素Pd/Tiを成膜した成形ベローズだけで超高真空を維持することができます。また、Pdは酸素を透過しないので、Pd層で覆われたTi層は酸化されません。このため大気導入とベーキングを繰り返してもH2とCOに対する排気速度は低下しません。

図1.ベローズ内面に成膜された無酸素Pd/Ti薄膜がH2、COを排気するメカニズム

 オールメタルバルブ、無酸素Pd/Tiを成膜したICF70成形ベローズ、ニップル、B-A真空計から構成される真空システム(図2)において、封じきりにした場合でも超高真空を実現した例を図3に示します。この真空システムを133℃で12時間ベーキングして、室温に戻したのち、オールメタルバルブを閉め、真空システムを封じきりにした場合には4.6×10–6Paの超高真空に保たれました(図3の―●―)。また、この真空システムを176℃で3.5時間追加ベーキングして、真空システムを封じきりにした場合には1.7×10–7Paの超高真空に保たれました(図3の―▲―)。さらに、この真空システムを200℃で3.5時間追加ベーキングして、真空システムを封じきりにした場合には6.1×10–8 Paの超高真空に保たれました(図3の―▼―)。以上の結果はベーキング後に、無酸素Pd/Tiを成膜したICF70成形ベローズが真空排気することを示しております。一方、無酸素Pd/Tiを成膜していないICF70成形ベローズを用いて、同様の真空システムを構成して、150℃で12時間ベーキングして、室温に戻したのち、真空システムを封じきりにした場合にはわずか50分で4.1×10–2Paまで悪化しました(図3の―■―)。この結果は、無酸素Pd/Tiを成膜していないICF70成形ベローズはベーキング後もガスを放出することを示しております。

図2.オールメタルバルブ、無酸素Pd/Tiを成膜したICF70成形ベローズ、ニップル、
B-A真空計から構成される真空システム

図3.オールメタルバルブ、無酸素Pd/Tiを成膜したICF70成形ベローズ、ニップル、
B-A真空計から構成される真空システム(図2)において、オールメタルバルブを閉
めたとき前後の圧力曲線。